飼育下での繁殖

2021.10.27

もし飼っているオカヤドカリが産卵したら…?!

オカヤドカリは雄と雌が同じケース内にいて相性が良ければ飼育下でも産卵をします。

購入をした時にすでに産卵していた雌だったということもあります。

 

オカヤドカリは繁殖期は広めに見て4月~10月まで(当店ではこのぐらいでした)ですが、飼育下ではヒーターを使用して年中25℃ほどをキープしていると予想外の時期に産卵することもあります。

 

 

放幼するタイミング

まず雌が貝殻の中に産卵をし約1ヶ月ほどが経つと、海水の中に卵を放ち(放幼)その卵がすぐ孵化し幼生ゾエアが誕生します。(海水ではなく真水の中に放幼してしまった場合は後で急いで海水に移したとしてももう死亡しています。地上に卵を放してしまった場合は砂ごとすくって海水の中に入れエアレーションをかけてみてください。助かる子もいます)

 

産卵0日目が分かっていればいつ頃放幼するのかだいたい分かるのですが、気が付いたら産卵していた場合は卵の色で判断します。

産卵したては色が濃く、放幼が近付くと色が白っぽく(薄く)なってきて黒い目が見える発眼卵になります。

 

↓色が濃いので放幼はまだです

 

↓色が白っぽくなり発眼卵です。発眼卵になるとだいたい2.3日ほどで放幼します。

 

放幼は夜にしますので(稀に午前中に人がいる時に普通にする子もいますが…)朝私達が起きたら放幼していたという状態がほとんどです。

ですので放幼が近付いたら弱めのエアレーションを必ずかけ、ちゃんと比重の測った海水を入れた容器を水槽内に入れてオカヤドカリが自由に行き来が出来る様にしておきます。当店は年中入れています。

(※オカヤドカリは一度に産卵する数がとても多い(放幼を二日に分ける時もあります)のでエアレーションをかけていないと酸欠になり朝にはほとんどのゾエアが死亡しているか生きていてもかなり弱っています)

エアレーションは強すぎると小さいゾエアは海水の外へはじき飛ばされてしまうことがありますので一片コック等で強弱を調節してください。

 

 

放幼したら

順調に放幼されたゾエアを確認したら、スポイトで別の深さのある容器に移し たっぷりの海水で育児をスタートします。(育児は飼い主のみです。母ヤドカリは放幼したら後は何もしません)

※移動させる方の海水は全て新しい海水で大丈夫です。水温を合わせていれば水合わせ等は必要ありません。

↓移動

ゾエアは海水中を遊泳するプランクトン生活なので、この時のエアレーションの強さはゾエアが水中を漂う様に容器全体に水流がいくような強さにします。

強すぎると洗濯機の様に流れが早すぎますし、弱すぎるとゾエアが底に沈んで集まってしまうので調度よく優しく水中を漂える強さを探して調節します。

水流が全体に行き届きゾエアが角に溜まったりせずちゃんと流れれる様に、容器は角張った物ではなく丸みのある物がおすすめです。

▼ゾエア

 

 

ゾエアのご飯

ゾエアのご飯はブラインシュリンプです。ワムシや植物性プランクトン等は必要なくブラインシュリンプのみで育ちます。

ブラインシュリンプは孵化させるのに一日かかりますが、ゾエアは飢餓に強く初日は何も食べなくても大丈夫ですのでご飯を与えるのは誕生した次の日からの毎日になります。(孵化したての栄養価の高いブラインシュリンプを与えたいので毎日沸かします)

 

ゾエアはとても小さく食事風景を見ていてもブラインシュリンプを食べているのかどうかは肉眼では分かりません。

判断方法はゾエアの色が透明からオレンジ色(ブラインシュリンプの色)になっていたら食べている証ですので安心してください。

ゾエアもブラインシュリンプも光に集まる習性があるのでライトで一ヶ所に集め食べさせてもいいのですが、水中を遊泳しながら食べるのが自然体ではないかと思うので、エアレーションで遊泳させながら出会ったブラインシュリンプを食べるようにさせます。

ライトは日中だけ全体が明るくなる程度に付けておきます。

▼ゾエアの給餌風景

 

 

水換えについて

ブラインシュリンプは朝に一回全体に行き渡る量(←だんだんと適量が分かってきます)を与えます。

ブラインシュリンプを沢山入れると水質が悪くなってしまうので要注意なのですが、ゾエアの死亡の原因は餓死率が高いと思いますので水質悪化を恐れて少なめに入れるよりも、多少多めに入れておいて毎日全換水する方がゾエアは元気に育ちます。

水質悪化が不安になりブラインシュリンプを入れたら一時間ほど待ちすぐ換水して常に綺麗な海水で育てたくなるのですが、この方法はあまり合っておらず、ゾエアにとっては常にご飯が食べられる状態が好ましいので、朝ブラインシュリンプを入れ 日中は放っておき 夜に全換水する(スポイトでゾエアを移す時にブラインシュリンプが一緒に移っても大丈夫)という方法で私は育てました。

換水方法は水温を合わせた新しい海水を入れた同じ容器を用意してスポイトでゾエアを移します。この時に容器にライトを当てて一ヶ所にゾエアを集めてから吸うと楽に移せます。

アクアリウムをされている方だと水合わせはしなくて大丈夫?!と不安になるかもしれませんが、水温さえ合っていれば大丈夫です。

 

 

水温の維持が難しい…

水温は28℃か29℃を出来るだけ昼夜一定に保つようにします。

水中ヒーターを使用するとヒーターの中にゾエアが入り込んでしまう為使用が難しく(網を付けても網とゾエアが絡まってしまう)、パネルヒーターだと熱くなり過ぎたりするので一日中小まめにチェック出来たらいいのですがなかなか調節が大変です…。

温度を安定させるには周りを温めその中に飼育容器を置き調度いい水温にするのが一番楽です。

例えば海外の方に多い方法ですと、大きい水槽にゾエア飼育容器を固定させた物を作り、大きい水槽の方に水を入れ水中ヒーターを使用し温めます。その周りの水温でゾエア飼育容器内の海水も温められ朝晩等の温度の変動もほぼなく安定します。

ここまでは無理だとしても数が少なければ発泡スチロールの箱や何かのケースにパネルヒーター等を付け、ケース内を温めその内に容器を入れ水温を保つ、数が多ければ一室をエアコンで一定の温度にし水温を保つようにします。(当店はいろいろ試した結果エアコンでの管理が一番楽でした)

ゾエアは意外と強く、水換えの時に多少ドバドバ入れようがスポイトで移動の時に雑に扱おうが案外大丈夫なのですが水温にはとても敏感で、昼夜の温度変化や水換え時の急激な水温の変化幅が大きいと徐々に死んでしまったり、ゾエア期では元気に見えてもグラウコトエに変態する時に失敗して死亡する個体が多かったり、変態した後に元気のない子が多かったりしますので水温には一番の注意が必要です。

 

 

ゾエアからグラウコトエへ

オカヤドカリは脱皮を繰り返し大きくなりますがゾエアの頃からも同じで、水中で5回脱皮します。4回まではゾエアの形なのですが5回目の脱皮で大きく見た目が変わりグラウコトエ(メガロパ)に変態します。

↑右側のゾエアの様にお腹の辺りが大きくなるとグラウコトエに変態する日が近いです。

↑グラウコトエ

期間はゾエア誕生からナキオカヤドカリ・ムラサキオカヤドカリで約15日~、オカヤドカリで約25日~です。

ここにも水温が大きく関わってきて、29℃でずっと育てていると上記の日数で変態する個体が出てきます。それより低い25℃で育てていると変態までにすごく時間がかかり、それだけ育児の終わりが見えなくなってくるのでおすすめしません。(25℃で育てたオカヤドカリのゾエアでグラウコトエ第1号が誕生するまでに32日かかりました…)

 

※グラウコトエに変態する前に

グラウコトエになった途端ハサミで器用にちぎりながら固形物を食べるようになり、自分で好きな所に泳いで移動するようになるのでエアレーションでの遊泳も必要なくなります。(エアレーションは必要です)

この時から共食いも始まりますのでゾエアとは別のグラウコトエ用の少し広めの水槽を用意してあげてください(60cm以上になると掃除が大変になるので私は45cmほどが調度よかったです)

水槽の半分か少し少なめまで海水を入れ、共食いを出来るだけ防げるように隠れ家の役目や掴んで安定する為にサンゴ石や海綿を入れておきます。砂は敷かなくて支障ありませんしむしろ掃除が楽です。

酸素確保と水流を作るためにエアレーションだけでもいいのですが、ゾエアとはご飯の種類が変わり水質悪化が早いので、水質を作るバクテリアの事も考え私はスポンジフィルターを使用しています。

水質の為にライブロックがあった方がいいのか等いろいろ考えた事もありますが、全換水して大丈夫な子達ですのでレイアウトは Simple is Best!

気持ち的には亀の飼育に近く、水換えで清潔さを保ち掃除のしやすい仕様が一番です。水槽が大きくなるので水換えの量は1/2で大丈夫です。

 

 

グラウコトエの壁

ゾエアの死亡率は毎日数匹あるかないかぐらいで多くないのですが、グラウコトエに変態するのがとても大きな壁でこの時に数がガクンッと減ります。

脱皮失敗・形態異常(ゾエアの形のまま脚だけがグラウコトエのように長くなる等)・周囲からの攻撃等で死亡してしまう子もいます。

無事変態できた子は準備しておいた別の水槽へ移します。

 

 

グラウコトエのご飯

 

ご飯はクリル・ホタテ・鯛・サーモン・イカ・タコ・あおさ・ザリガニの餌・スピルリナ等を食べます。元気に泳ぎ回ってる子がいる間は絶対ではありませんがブラインシュリンプも続ける方が良さそうです。

魚はお刺身でも蒸したりして火を通したものでもどちらでも食べます。

ゾエアと同じように朝水槽にご飯を入れ 夜引き上げて換水するスタイルですがお刺身とかだと入れた瞬間脂が広がったり、ザリガニの餌は夜には崩れてしまったりとゾエア期と比べて与えるご飯に悩まされます。

私はクリルやホタテ・タコ・あおさをよく与えていました。(必ず夜には餌を引き上げて下さい。夜も食べるかな?と思い、入れっぱなしにしていると次の日には餌が腐り水質が大変な事になります💦)

どれだけご飯を入れても共食いはしますので多少の共食いはぐっと見て見ぬふりをしましょう。

▼グラウコトエ(メガロパ)の給餌風景

 

 

貝殻を背負うと可愛さ倍増❤️

グラウコトエに変態すると早い子で2.3日するともう貝殻を物色しだします。ですのでグラウコトエ水槽には殻口0.15~0.2cm程の小さい貝殻を入れておきます。

共食いを防ぐためにも早く貝殻を背負ってほしいのですが、こちらの気持ちとは裏腹にスーパーマンのようにスイスイ泳いでる子もいれば床にゴロゴロしてる子もいます。

グラウコトエとは元々こんなにのんびり屋さんなのか、自然界のように命を狙われることが少ないから余裕をかましているのか分かりませんが、自ら貝殻に入ってもらわないとどうしようもないので入るまで待ちます。

それでも一番貝殻に入るタイミングがあって、それは水換えをしている最中とその後です。

水流が強くなると急いで貝殻に入ってそのまま定着する子もいれば、ただ嵐が過ぎていくのを待つだけの子もいます。そういう子はまたすぐ出てきてスィーと泳いで行きます。

そのマイペースさに飼い主は振り回されます😅

ちゃんと入ってもらうためにも貝殻は多めに入れて、日頃から汚れていないか・中に空気がたまっていないかチェックします。(中に空気がたまっていたらスポイトで抜いて下さい)

貝殻を背負わず裸のまま上陸したり、水槽のシリコン部分から上に登ってくる子がいますが乾燥で死んでしまう子もいるので見つけたら水中に戻します。

 

↓逆立ちしたまま歩いてご飯食べたりします。早く貝殻背負って…😭

 

※貝殻を物色しだしたら

物色しだしたら定着する前に上陸用の水槽を用意しておきます。

右側が海水スペースで左側はいつでも脱皮が出来るようにサンゴ砂を敷いています。

この砂の厚さでも十分な深さがあるぐらい稚ヤドカリは小さいです。

海水の中からサンゴ石等を登りサンゴ砂の方へ移動出来るような作りになっていれば大丈夫です。

上陸したとしてもいつでも水中に戻れるようにどちらからも行き来できるような仕様にしてください。

▼上陸の風景

 

 

貝殻が定着したら

グラウコトエが貝殻を背負いそのまま移動しだしたら上陸用の水槽に移動させます。

グラウコトエの体は透明ですので透明な子が貝殻を背負い地上をうろうろしていてもまだ稚ヤドカリではありません。

↑貝殻を背負ったグラウコトエ達

グラウコトエが砂に潜り何度か脱皮をし、体に色が付きちゃんと左のハサミが大きくなって貝殻の入り口を蓋することが出来たらとても曖昧な判断なのですが稚ヤドカリになったと言えるのかな?と思います。

顔付きもグラウコトエの顔からオカヤドカリに近い顔になっていきます。

 

 

生活場所がほぼ地上になったら

上陸する時にもまた、水中から地上への乾燥に適応できるのかの大きな壁があり、適応できなかった子は地上で死んでしまいます。

ゾエアからグラウコトエへ、水中から地上へ。

ステージが変わるタイミングが繁殖でのポイントとなるようです。

 

この時期は本当に乾燥に弱いので大人のオカヤドカリよりも多湿で管理します。多湿過ぎてサンゴ砂が湿り砂を通り越してしまうのですが、びしょびしょに濡れている状態といつもの湿り砂の間ぐらいを保てるようにします。(穴を掘ってその穴が維持できれば良しとします)

上陸すると地上で貝殻の引っ越しもしますしご飯も食べます。ご飯は大人のオカヤドカリと同じですが多湿なので痛みが早いので注意してください。

どんなに小さい子達でも貝殻の奪い合い等トラブルは起きてしまうので、あまり一ヶ所に集まらないように隠れ家やご飯は数ヶ所に分けて置くのをおすすめします。

真水は入れ物に入れて置いておくのではなく海綿にふくませておくのが安心です。

上陸すると数日に1回おきに脱皮をします。頻繁に脱皮をしますが数日ですぐ出てきます。

 

 

無事繁殖を成功させて思うこと

グラウコトエ誕生から1ヶ月ほど経つと日に日に体がしっかりしていき体色の違い等も出てきはじめ、見た目もすっかりオカヤドカリになり(かなり小さいですが)今までの育児を勝手に振り返り1人でじーんとしてしまいます😂

MサイズやLサイズまでに成長するのはどれだけの奇跡を積み重ねたことなんだと放幼からのことを思い返すと強く感じられます。

 

オカヤドカリの飼育下での繁殖は手がかかり大変ではありますが不可能ではありません。

もし飼われているオカヤドカリの産卵が発覚した時に少しでも参考になれば幸いです😊

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